今回は、認知機能の中でも対人関係に必要な社会認知機能のリハビリ・メタ認知トレーニングについてご紹介します。
対人関係にストレスを感じやすい、トラブルによく巻き込まれるなどの方におすすめです。
対人関係トラブルは、相手の問題もあるかと思いますが、自分の感じ方、心の持ち方でストレスを抱え込まない生き方ができます。ぜひご参考ください。
目次
メタ認知トレーニングってなに?
対人関係をうまくやっていくために必要なことは、相手の気持ちや意図などを読み取る力が必要です。
「相手の問題だ」と思っていることも、読み取りまちがいにより勘違いや思い違いにつながっていることがあります。
このような読み取りまちがいで、トラブルに陥っていると思い込んでしまうことのないようにトレーニングするのが、メタ認知トレーニングです。
メタ認知トレーニングとは、自分の読み取りまちがいに気づくトレーニングです。
病院や施設などでは、「やわらか頭教室」「広げて発見教室」など親しみやすいネーミングで提供されています。
どんな人が対象なの?
読み取り間違いの傾向は、精神疾患によって特徴があります。
そもそも、メタ認知トレーニングは統合失調症の方むけに開発されたものですが、最近はうつ病の方むけのプログラムもできました。
精神疾患の方が読み取り間違いしないためのトレーニングをする内容になっています。
勿論、読み取り間違いの傾向は、私をはじめ誰もがあてはまります。
病気に関係なくどんな方にも普段の生活に活かしていってもらいたいプログラムです。
メタ認知トレーニングは、クイズや映像を通して思い込みや読み取りまちがいしやすい自分に気づけるような内容になっています。
クイズや映像を注意して見る、映像のスピードについていけないなどの神経認知機能の低下があると、なかなか「気づき」につなげていくことが難しいことがあります。
そのような場合は、メタ認知トレーニングの前に神経認知機能からリハビリに取り組むことが適している場合もありますので主治医に相談してみてください。
具体的にどんなふうにやっているの?
このプログラムは、グループセッションで行っているところが多いです。
誰かの意見を聞いて、自分の意見を振り返るということができるからです。
メタ認知トレーニング内容は次のような構成になっています。
メタ認知トレーニング構成内容
module-1:帰属:原因帰属の偏り
module-2:結論への飛躍:少ない情報で結論を下してしまう
module-3:思い込み:自分の判断は間違っていないと思い込む
module-4:共感すること-Ⅰ:他者の感情を理解する
module-5:記憶:記憶の謝りと記憶の限界
module-6:共感すること-Ⅱ:他者の感情を理解する②
module-7:結論への飛躍-Ⅱ:少ない情報で結論を下してしまう②
module-8:自尊心:自分を尊重する気持ち
難しい言葉がたくさん出てきますね。
これらの語句の説明は、またの機会に説明していきたいと思います。
たとえば、「module-2:結論への飛躍:少ない情報で結論を下してしまう」のセッションでは、こんなトレーニングをします。
homareko
次の絵は、なにを描いたものでしょうか?
少しずつ、情報が足されていきますので、なにが描かれているのかを考えていきましょう。
homareko
さて、何の絵でしょうか?
このようなクイズで、最初に考えた答えも情報が増えていくと考えが変わっていくことや、情報が少ない段階で結論付けてしまうとまちがいやすいことを体感します。
なんだこれ?と思っていたものも、情報が足されると正解が導きやすいですね。
homareko
正解はこちらでした。
homareko
ちなみに正解は上から見た象です。
クイズの正解を出すことが目的ではなく、このようなクイズによって、間違いやすい自分に気づくことが大切です。
そして、体感したことを日常生活へフィードバックをしていきます。
「結論への飛躍」とは、簡単にいうと早とちりです。
「早とちりはトラブルの元」ということをこのセッションを通して学んでいきます。
「やばい!」と思っていることも、早とちりや勘違いだったという経験ありませんか?
「自分は間違っていない」と思い込んでしまうと「やばい!」と思う気持ちに支配されて大きなストレスになります。
しかし、同じ「やばい!」と思う問題も「自分の早とちりや勘違いの可能性もあるな」と考えることができると、違う角度で考えてみる、情報をあつめてみるなどの行動がとれるようになり、少し自分の気持ちがやわらかくなります。
セッション終了後は、毎回ホームワークが渡されます。
ホームワークでは、自分の生活を見直し、セッションで行ったようなエピソードがなかったか確認します。
少しずつエピソードに対する自分の気持ちや考え方に気づいていくことができるようになり、自分でストレスをため込まない考え方に修正することができるようになります。
このトレーニングも「Well beingウェルビーイング」「いい感じで生きていく」ためにあります。
※【現場レポート】私もまだまだ勉強中です。 今度は京都府立洛南病院に見学に行ってきました。
「ストレスになることはいろいろあるけれど、ため込みすぎない生きかたをしていこう」ともいえますね。
そのために必要な社会認知機能の特徴をよく理解しうまく働かせていくトレーニングが、メタ認知トレーニングです。
どこでやっているの?
このトレーニングは、主に精神科の病院の入院プログラムやデイケア、就労支援施設などで行われています。
現時点では、特別な診療報酬がついているわけではないので、作業療法の一環や退院支援プログラム、就労支援プログラムなどに組み込まれていることが多いかと思います。
メタ認知トレーニングをするとこんな効果があります!
このトレーニングを受けた方の声です。 ご本人もさることながら、周囲から本人への評価も高くなっています。
また、メタ認知トレーニングを行うことによって、セルフコントロールや病気の状態を把握する力が向上します。
同時に病気になりやすい考え方を自分自身で気づき修正することができるようになるため病気の再燃が予防されます。
今日のまとめ
・メタ認知トレーニングは、自分の読み取りまちがいに気づくトレーニング
・読み取りまちがいは誰にでもある!
・間違いやすい傾向を知っておくと、意地っぱりや頑固者にならずにすむ
・病気になりやすい考え方に自分で気づけるようになると、病気の再燃を予防できる
今回は、社会認知機能リハビリの代表格、MCT-J(メタ認知トレーニング)をご説明しました。
このトレーニングは、私たち誰もが日常生活の中で少し気をつけていると、対人関係がスムーズになります。
病気の方のみならず、社会認知機能のトレーニングは誰にでも有効なので、ぜひ知ってもらいたいです。
参考文献等
※メタ認知トレーニング(MCT)の理論と実践 東京大学大学院総合文化研究科 石 垣 琢 麿