認知矯正療法(神経認知機能リハビリ)の講習会の講師を務めていらっしゃった先生の一人、岩根達郎先生の京都府立洛南病院の認知機能リハビリ現場へ見学に行ってきました。
今回は、京都府立洛南病院の現場レポートです。
※前回-【現地レポート】認知機能リハビリ現場をレポートします ~北海道・林下病院~
スタッフの心得やリハビリ運営のヒントがたくさんありましたので、リカバリープログラムに携わっている方はぜひご参考ください。
目次
岩根先生の貴重なお話
以前はアフロヘア―で印象的な岩根先生。現在はすっきりとさわやかな髪形で、心は患者さんに寄り添った素敵な作業療法士さんです。
※先生の論文はこちら
京都府立洛南病院では、デイケアプログラム内で認知機能リハビリは行われています。
「精神科のリハビリテーションは、患者さんのウェルビーイング(Well Being)のためにある」と岩根先生はおっしゃいます。
ウェルビーイングとは、「いい(よい)感じで生きる」ということです。
いままでの精神科診療は、病状のみにスポットをあててきた治療の歴史でした。
やっと時代は精神科診療の本質にたどりつき「患者さんがどのように生きていくかをサポートすることが精神科治療である」ことに気づきました。
「いい(よい)感じで生きる」は患者さんとサポートするスタッフサイドの共通した目標であるべきだと思います。
京都府立洛南病院のデイケアのここが素晴らしい!
京都府立洛南病院は、京都府の急性期救急医療を担っている病院です。
短期集中治療をモットーとし、アフターケアはデイケアで主に行われています。
デイケアは「患者さんの人生の通過点」であり「いい(よい)感じで生きていく」ためのサポート場所になっていました。
こちらが、京都府立洛南病院のデイケアプログラムです。
プログラムの内容には認知機能リハビリが組み込まれていて、とても充実した内容となっていました。
その中で私が特に素晴らしいと思った点をご紹介します。
homareko
ここが素晴らしい!
① 洛南病院では、デイケア参加して間もない患者さん全員を対象にビギナーズゼミを行っています。
このゼミの中で、なんのためにデイケアに通うのかという目的意識をはっきりとし、患者さんスタッフで共有します。
このビギナーゼミをはじめてからデイケアの脱落が減ったそうです。
② 認知機能リハビリは、「いい感じで生きる」プログラムのひとつになっています。
患者さん本人の動機がはっきりとした段階で開始します。
デイケアプログラムや体験就労などを通して、患者さんに認知機能が低下していることに気づいてもらうことをまず大切にされていました。
③ デイケアの前後で各プログラムの報告会が患者、スタッフ全体で行われていました。
この時間を設けることで、自分の参加していないプログラムの情報が自然と耳にはいってくるシステムになっています。
また、他プログラムのメンバーとも顔なじみになるいい機会となっています。
④ デイケア全体が明るく活気ある雰囲気があります。
洛南病院デイケアに通うことが自分の未来につながっている安心感と自信が感じられました。
病気になってしまったことは仕方ないことだけど、リカバリーに向けて頑張っている前向きな患者さんの姿がありました。
京都府立洛南病院の認知機能リハビリのここが素晴らしい!
認知機能リハビリは、デイケア内のプログラムで運営されています。患者さんがリハビリの目標を明確にしたうえで導入されます。
現在では、デイケアに通いながら待機している人がいるほどの人気プログラムです。
この人気を裏付ける素晴らしい取り組みを私なりに分析してみました。
homareko
ここが素晴らしい!
① 動機付けへの過程が素晴らしい。
患者さんの中には、できないことに気づかない患者さんがいます。
そんなときは、たとえば、作業療法や就労を体験する機会などを通して認知機能の低下に気づけるような働きかけをしています。
② 一月ごと随時導入方式をとっています。
リハビリを開始した順番に机をわけて、段階別に本人に合わせたコンピューターセッションへの介入をおこなっています。
スタッフが戦略のキーワードを言語化し、うまく本人へ意識付けをすることで、患者自身が数々の戦略を選択し取り組めるようになっていました。
③ ゲーム課題をおこなうのみでは、なかなか改善を実感できません。
2週間に一度パソコンの早打ちテストをおこない、認知機能が向上していることを実感してもらい、リハビリへのモチベーションを保っています。
④ 言語セッションは、機能別に強化月間をたてて取り組んでいます。
私が見学した日は注意機能の強化月間でした。
月の終わりにはロングブリッジングの時間をもうけ1か月の復習をします。
言語セッションについては、このあと詳しくお話します。
⑤ 脱落者がとても少ないです。なんと84名中6名のみ!たったの7%です。
それはなぜか。やはり、動機づけです。
6か月後実現可能であるリハビリの個人目標を明確にします。
なんのために取り組むかを自覚してもらうことが大切であると岩根先生はおっしゃっています。
見学した言語セッションのテクニック
リハビリの中で、一番悩むのが般化(ブリッジング)です。
認知機能リハビリにおける般化(ブリッジング)とは、ゲームと実生活、認知機能の橋渡しをすることです。
見学させていただいたセッションは、このポイントを巧みにおさえて進行されていました。
順を追って見ていくと
まず、アイスブレークから始まりました。
認知機能を用いた簡単な遊びを取り入れて、グループメンバーが楽しく学べる雰囲気をつくります。
今回は、差し入れのお菓子を選ぶ順番をじゃんけんで決め、その順番をこたえるというものでした。
「作業記憶がきたえられましたね」とフィードバックし、どんな認知機能をつかっているかを意識づけします。
場が和んだところで本セッションです。
今回のテーマは「選択的注意」
注意のスポットライトはどのような仕組みになっているかを学習しました。
まず、身近にあったストップウォッチを目の前にぱっと出します。
岩根先生
これをみて何に気づきましたか?
参加メンバーからそれぞれ気づいたところを言ってもらいます。
答えは人それぞれで、色の特徴を答えたり、数字を答えたりです。
この体験より注意のスポットの当て方は人によって違うことを学びます。 次に視点を変えて室内の流しにスポットを当てます。
注意のスポットがどこにあたったかを更に実感してもらいます。
おなじ一つのものでも、見え方、考えること、感じ方、経験、興味により注意のスポットの当たり方が人それぞれ違うことをフィードバックします。
岩根先生
生活の中では、どんなところに注意をあてていますか?
メンバーからの答えは、「買い物でほしいものがどこにあるか探すとき」「冷蔵庫のなかから必要なものを探すとき」などなど様々です。
その答えから、注意には意識的にむけるものの無意識にむけているものがある、見えるもの聞こえる音などいろいろな五感が注意のスポットをあてていること、スポットが当たりにくいものには自分から注意を向ける必要があることなど、選択的注意の特徴を伝えます。
岩根先生
生活の中では、自分が何に注意を向けているかをメタ認知するといいですね。
最後は、「気づき」に結びつけます。
ひとつの視点で注意を向けすぎてしまっていないか、必要なところに注意がむけられているかどうか、人と気づくことが違うこともありうることであるなどがメタ認知できると自己修正につながります。
楽しく無理なく般化につながるセッションでした。
洛南病院では、デイケアプログラムの様々な作業療法や体験就労などを通して実生活からの気づきを促し、言語セッションの中に生かしています。
一つの認知機能を月間目標とし、一回のセッションでは、一機能の一部分ずつを般化しています。
デイケアプログラムの中の位置づけ
洛南病院のデイケアは、患者さんのウェルビーイングを目標にしています。
ウェルビーイングの達成のためには、体力や対人関係様式など必要な機能向上があります。
そのうちのひとつが認知機能です。
多方面から患者さんのよりよく、いい感じで生きるサポートしているシステムがありました。
終わりに
京都府立洛南病院デイケアスタッフのみなさま、患者様、見学のお時間をいただきありがとうございました。
リカバリーを目指してすすむ皆様の姿は明るく前向きでとても輝いていました。
私も、洛南病院を見習って、認知機能リハビリやサポート体制を整えていきたいと思います。
この記事を通して、認知機能に取り組む人達の輪が広がって行けばいいと考えています。