ここ最近、「認知機能」という言葉をよく耳にするようになりました。
「認知症の予防のために認知機能をトレーニングしましょう」というフレーズは一般にもよく聞かれます。
さらに、精神科の診療現場では、「治療として認知機能を取り扱っていきましょう」という大きな流れがきています。
・認知機能というものがなんなのか?
・認知機能が低下したらどうなるのか?
・認知機能の低下を扱うにあたって、診療や看護にはどのように関係してくるのか?
ということを知っておくことは、これからの精神科領域に携わる方々に必須です。
今回は、精神科診療に携わっているスタッフ向けに認知機能をわかりやすく説明したいと思います。
なぜ「認知機能」を知らなければならないのか
精神科病院の日常では、よくこんなことが起こっています。
だから、この様にやってください。(この患者さん、どうしても言っている事がわかってもらえないなぁ…)
看護師さん
患者さん
はぁ…(早口で話されるとわからないんだけど…)
(言ってもわからないから、先生(医師)にお願いしよう)
看護師さん
精神科病院の中ではこんな場面をよく見かけます。
これは認知機能が低下していることが原因で困った状況が生じていることが多くあります。
ほかにも認知機能の低下によっておこる症状としてよくある出来事を見てみましょう。
認知機能低下による日常の出来事
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いかがですか?この例は精神科疾患の患者さんに接しているとよくある問題ですよね?
どうしても日頃の業務の中では、行動の部分のみを観察し「なぜ」そうなってしまっているのかという部分を見逃しがちです。
この様に生活機能の低下の主な原因は認知機能低下にあります。
患者さんのリカバリー目標の実現や日常生活機能の回復には認知機能を理解しアプローチしていくことが必要になります。
認知機能を改善することで生活指導や退院支援とかにつながっていくんですね?
看護師さん
homareko
そうです。生活の状態を回復させるだけでなく再発予防にもとても大切です。
homareko
認知機能が低下していると病識が悪かったり、服薬管理ができなかったり、病気が再発しやすいことにもつながってきます。
認知機能とは何ですか?
認知機能とは、一言で言えば脳の基礎システムです。パソコンで言えばOSみたいなものです。
以前の記事では機械の部品にあたるようなものと説明しました。
※『精神科医が小学生でもわかるように「認知機能」を説明してみました』
色々な情報は認知機能を通して処理しています。図にしてみると
このような過程となります。
たとえば、下のイラストを見てみましょう。
このイラストを見てあなたは何と判断しましたか?
この情報を見たとき、脳の中では下の図のように処理されています。この過程を説明すると
①(知覚)
まず目からの情報で、赤くて丸いものと情報を得ます
②(認知機能)
その情報が脳の中に入ったら「処理、推論、思考」されます。
ここで形や色などを手掛かりとして、自分の記憶と照らし合わせ判断されます。
③(認知)
情報を基に判断して、「こうしよう」「こうしたい」と決断します。
④(行動)
この決断により、私たちは行動にうつります。
この過程から情報を「りんご」と判断したあなたは、「皮をむく」「食べる」という行動にうつるかもしれません。
しかし、この認知機能がうまく働かなかったらどうなるでしょう。
例えば…
この様に「りんご」を見ても、うまく認知機能がはたらかなかったら「爆弾」と捉えてしまう事もあるでしょう。
色や形のとらえ方や記憶まちがいで判断した結果、「爆弾」と捉えてしまったら…
あなたは「皮をむきます」か?「食べます」か?
これは極端な例ですが、認知をする過程で何らかの問題があると適切な行動がとれなくなってしまいます。
この過程が人の表情を処理するときに起こっていたらどうでしょう。
「笑顔」が素敵な看護師さんの顔も、それが「怒っている」「怖い」と判断してしまう患者さんの場合、逆切れして怒り出すという行動をとるかもしれません。
この例の様な患者さんの行動をみて、何が原因かをさぐるのはとても大変ですが、認知機能の低下が原因かもしれないという視点をもつことは大切です。
今まで話してきた認知機能は大きく二つに分かれます。
それは基礎的な機能を担っている「神経認知機能」と対人関係に使われる「社会認知機能」です。
認知機能低下の状態は、疾患による特徴はあるものの患者さんによって様々です。
そのためにアプローチは個別に考えていく必要があります。
今後の記事展開として、この「神経認知機能」「社会認知機能」の2つについても説明していきたいと思います。
今日のポイント
・認知機能は脳の基礎機能である。機械の部品のようなもの。
・認知機能の部分で、考えたり処理したり判断したりしている。
・患者さんには認知機能の低下がある。
・認知機能の低下にあわせた介入をしよう。生活へのフィードバックが大切!
・認知機能の改善は、患者さんの希望をかなえる、病気の再発予防などにつながる。。
今回の記事はいかがでしたか?
わかりにくい、難しいといったイメージの強い認知機能の分野をスタッフ向けに説明しました。
イメージをつかむまでが難しい分野なので、もやもやしている部分が残った時は是非お気軽にご質問ください。
ご質問ご要望お待ちしています<(_ _)>